説得の秘訣『影響力の武器』[第三版]
【今回のテーマ】
人を説得するノウハウ
【今回の一冊】
◆タイトル:『影響力の武器』[第三版]
◆著者:ロバート・B・チャルディーニ(著)、社会行動研究会(翻訳)
◆出版社:誠信書房
◆ページ数:496ページ
◆2014.7.10
【こんな方にオススメ】(5段階)
●商品・サービスに自信があるが売り方が苦手 ☆☆☆☆☆
●営業・販促術を学びたい ☆☆☆☆
●騙されない賢い消費者でありたい ☆☆☆☆
【レビュー】
●相手にYESと言わせる6つの基本的原理
私はこれまで、実にだまされやすい人間でした。
販売員や募金活動員、その他さまざまな説得上手な人に丸め込まれました。
結果として、いつも私は読みたくもない雑誌を購読することになっていたり、行きたくもないダンスパーティのチケットを買わされていたりしたのです。
承諾の研究に興味をもつようになったのは、おそらく、長いあいだ自分がカモの地位に甘んじていたためでしょう。
私は、実験社会心理学者として、承諾の心理について研究を始めました。
この承諾の心理、背景にある原理を影響力の武器と呼ぶことにします。
セールスマン、募金活動員、広告マンなどに実際に入って経験する参与観察も行いました。
その道のプロがイエスと言わせるために使う戦術は数限りなくありますが、
その大部分は6つの基本的なカテゴリーに分類できることが明らかになりました。
返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性の6つの基本的原理です。
アマゾンや楽天といったネット通販で、レビュー数の多さを重視してよく商品を選びます。
また、楽天ランキング1位獲得など、多くの人に支持されていることが選ぶ決め手になることもあります。
これらは6つの基本的原理の中でいうと、社会的証明に該当します。
自分の決定に確信を持てないとき、あるいは状況が曖昧なとき、ほかの人びとの行動に注意を向け、それを正しいものとして受け入れようとする。
本書では社会的証明について、こう述べています。
ホームページやSNSで会社やお店のウリをどう紹介するかを検討するとき、その根拠まで伝えることをいつもお伝えしています。
いままで販売促進の手法を色々勉強してきましたが、このイエスと言わせる6つの原理に強い結びつきがあることを実感しました。
本書では6つの原理を具体的事例をもとに面白く紹介されています。
読者からのレポートとそれに対する筆者から一言も大変興味深いです。
一方で、承諾誘導のプロが6つの原理を駆使してセールスしてくることに対しての防衛策が紹介されている点も注目すべきポイントです。
本書を通じて、セールス・購買などの意思決定のレベルアップができます。
(1)無料試供品の2つの効果-返報性
マーケティングのテクニックとして、無料の試供品を配るという手法は、効果が高く、長い歴史があります。
顧客となりそうな人たちに製品を配布し、その反応を見るわけです。
確かにこれは、生産者が製品のよさを知ってもらうために行っているという一面はあるでしょう。
しかし、無料試供品の真の強みは、それが一種の贈り物であるため、返報性のルールを持ち込めるという点にあります。
製品の存在を知ってもらいたいだけというような振りをしつつ、贈り物につきものの報恩の義務の力を起動させているのです。
インディアナ州にあるスーパーマーケットの経営者は、一日数時間だけチーズを買物客の前に出し、
それを客に自分でスライスさせて、試食品として食べてもらうというやり方で、驚くなかれ450キロものチーズを売ってしまったのです。
「ただより高いものはない」とはよく言ったものです。
フェイスブックやインスタグラムでも、いいね・シェア・コメントをよくしてくれる人の投稿は見ようという気になります。
伊勢神宮の前の商店街で、最もインパクトがあったのは、焼いた魚をどんどん無料で配って食べてもらう干物屋さんでした。
無料で何かをお試しでいただくと、ブログやSNSで紹介しようかなと思ってしまうのも返報性のルールの力なんですね。
無料試供品の価値、今一度、考え直してみてはいかがでしょうか。
(2)95%の人は、他の人のやり方を真似る?-社会的証明
広告主は、製品の「伸び率が最高」とか「一番の売れ行き」といったことを私たちに強調したがります。
こうすれば、製品のよさを直接わからせる必要がないからです。
ナイトクラブの経営者のなかには、店にまだ客を入れる余地がかなりあるのに、入場制限をして、外に長い行列を作らせる人がいます。
目に見える社会的証明をでっちあげて、店の質の高さを示そうというのです。
セールスマンは、すでにその製品を買った人たちのことをいろいろと織り交ぜて話をするように教えられています。
「自分で何を買うか決められる人は全体のわずか5%、残りの95%は他人のやり方を真似する人たちです。ですから、私たちがあらゆる証拠を提供して人びとを説得しようとしても、他人の行動にはかなわないのです。」
ある年、敬老の日に祖母に何かプレゼントをしようと商品を楽天で探していました。
1つ1つ検索して吟味するのに疲れ、最終的には人気ランキングの中から良さそうなものを選びました。
飲食店でも、パン屋さんでも、ケーキ屋さんでも、初来店者が人気商品をわかるようにしましょうとお伝えしている効果を再確認させていただきました。
当店人気No.1、売れ筋ベスト3、ベスト5といったPRはぜひしてもらいたいものです。
(3)ショッピングカートがどのようにして生まれたか?-社会的証明
シルバン・ゴールドマンは1934年に小さな食料雑貨店をいくつか買収した後、
店の客が買い物をやめるのは、手にもった買い物カゴが重くなりすぎた時だと気がつきました。
その気づきがきっかけとなって、発明されたのがショッピングカートです。
当初、ショッピングカートを進んで使おうとする顧客は一人もいませんでした。
店内の目立つ場所数カ所にたっぷりと配備し、使い方と利点を説明した看板を立てましたが、やはり誰も使いませんでした。
ゴールドマンはすっかり落ち込み、諦め気分になりましたが、顧客からいぶかしい気持ちを取り除くアイデアを、もう1つだけ試してみることにしました。
それは社会的証明の原理を土台とする方法でした。
買物客を何人か雇い、ショッピングカートを押して店内を回らせたのです。
その結果、程なくしてサクラでない客も真似するようになりました。
やがてショッピングカートは全米を席巻し、発明者のゴールドマンは資産4億ドル以上の大金持ちとして生涯を終えました。
仕事柄、新製品・新サービスの起ち上げを支援することが多いです。
確かに、特徴・使い方・利点を説明しているだけでは足りないことも多いです。
ある新製品では、プロモーション動画で初めて何をするものか理解してもらい、
実際に使用体験していただくことで、その必要性を認識していただいていました。
(4)米国の高級レストランで最もチップを稼ぐウエイターがしていること。
高級レストランで最もチップを稼いでいるウエイターヴィンセントの手法。
8~12人くらいの団体が来ると、最初の人が注文しようとするのをきっかけに、作戦が開始されます。
彼女が何を選ぼうとも、ヴィンセントはまったく同じ反応をします。
額にシワを寄せ、ペンをもつ手を注文票の上で止めたまま、肩越しに支配人を一瞥した後、
何か陰謀を企てるかのように前かがみに立って、テーブルの全員に聞こえるように、
「その料理なんですが、今夜はいつもほどお勧めできません。その代わりに○○や☓☓をお勧めします。」
(この時点で、ヴィンセントは例の女性が最初に選んだものより50セントほど安い料理を2つ勧めます。」
といいます。
「今夜は両方ともすごくおいしいんです。」
この策略一つで、第一に、例え彼の提案を受け入れなかった人でも、自分が注文をするときに役立つ貴重な情報をヴィンセントが提供してくれたと感じます。
それに対して皆が感謝し、その結果、チップの額を決めるときに、返報性のルールが働くことになります。
また、ヴィンセントは、この策略を使って、チップの額を引き上げるだけでなく、団体客全員の注文量を増やすのに好都合な立場を手に入れもします。
そのレストランで今何がおいしいかを知っている権威者だと認められるのです。
今日は何がおいしくて、何がおいしくないか、ヴィンセントは明らかに熟知しています。
さらに、これこそ、彼自身の利益に反することをしていると見せかけるテクニックの効能なのですが、
最初に注文された料理よりも少しだけ安い料理を勧めるくらいなのだから、信頼できる情報提供者に違いないとみなされます。
自分自身の懐を肥やそうとしているのではなく、客のことを心から思っているように見えるのです。
誠実であるとわかった専門家であるほど、信頼できる人はいないというわけです。
思わず唸ってしまった接客術の事例でした。
この方法はとても応用が効きそうです。
「誠実である専門家ほど、信頼できる人はいない」
このことは肝に命じておかねばならないと再認識しました。
私自身、過去の商談で、自分のメリットを先に考えてしまっていた場合は大抵うまくいかず、失敗しました。
逆に専門家を装う人に騙されないためには、下記の2点が防衛策としてチェックすべきと著者は言われています。
1.どの程度の、本物の専門家なのか?
2.専門家なのはわかったが、誠実な人なのか?
きっちりと専門家を見極め、活用できるといいですね。
●数量と時間に制限を儲ける-希少性
希少性の原理が最も明瞭に使われているのは、ある製品の供給が不足していて、いつまで残っているか保証できないと消費者に知らせる「数量限定」戦術だと思います。
「このエンジンを搭載したオープンカーは国内に5台と残っていません。もう生産していませんから、買うなら今しかありません。」
「この分譲地のなかに、角地はもう二区画しか残っていませんが、これがその一つなんです。もう一つはうっとうしい西向きですから、お気に召さないと思います。」
「生産中止になっているので、また手に入るかどうかわかりません。今日のうちにもう1ケースお買い求めになっておいた方がよろしいですよ。」
数の限りがあるというこうした情報は、本当であることも、まったくのでたらめであることもありました。
しかし、いずれの場合も、消費者に商品の希少性を信じ込ませ、それによって目の前にある商品の現時点での価値を高めようとする目的があったのです。
数量限定に関連したやり方に、時間制限を設ける「最終期限」戦術があります。
この方法が最もよく使われるのは映画の宣伝です。
実際、つい先だっても、ある劇場主が一意専心し、たった五語のコピーを三度繰り返すことで、希少性の原理を活用していました。
それは「独占・特別・公開・終了・間近!」というものでした。
客と対面して圧力をかける商売人たちにとりわけ好まれているのが、
究極的な最終期限を設けて、今すぐ決断を迫るという手法です。
ある家庭用電気掃除機の販売店は、
「ほかにもたくさんの方にお会いしなくてはなりませんので、一般家庭につき一度しか伺うことができません。会社の方針で、お客さまが後でご購入の決心をされても、もう一度お伺いしてお売りすることはできないのです。」
と言うように、販売員を指導していました。
もちろん、これは馬鹿げた話です。もう一度来てほしいと客が言えば、喜んで飛んで行くに決まっています。
旅行では、その地に繰り返し行くことはそう多くはありません。
そういう意味で、旅行中の買い物・食事には常に希少性の原理が働いているのかもしれないですね。
最近では、お土産で持って帰ったものがネットで買えることがわかったり、百貨店の物産店で売られていたりでなんだかガッカリすることもあります。
嘘の希少性の利用は絶対にいけませんが、
1日1組限定のレストランもあるように、小さなお店や会社の場合は本当に生産可能数量が限られています。
個人でしているサービスも対応できる人数には限りがあります。
その点を正直に限定として伝えるのは良いのではないでしょうか。
誠実に経営されている方ほど、こういったテクニックを嫌う方、あるいは考えたこともない方が多くいらっしゃいます。
それで事業がうまくいっていればいいのですが、業績が右肩下がりといった状況であれば、伝え方を工夫することも1つの選択肢ではないかと思います。
【目次】
はじめに
まえがき
第1章 影響力の武器
第2章 返報性-昔からある「ギブ・アンド・テイク」だが
第3章 コミットメントと一貫性-心に住む小鬼
第4章 社会的証明-真実は私たちに
第5章 好意-優しそうな顔をした泥棒
第6章 権威-導かれる服従
第7章 希少性-わずかなものについての法則
第8章 手っとり早い影響力-自働化された時代の原始的な承諾
訳者あとがき
文献
【今回の一冊】
◆タイトル:『影響力の武器』[第三版]
◆著者:ロバート・B・チャルディーニ(著)、社会行動研究会(翻訳)
◆出版社:誠信書房
◆ページ数:496ページ
◆2014.7.10
【おすすめ度】(5段階)
●総合 ☆☆☆☆
●読みやすさ ☆☆☆☆
【関連書籍のレビュー】
【関連ブログ】
【関連サイト】
【編集後記】
20代の時に、高い買い物をしてしまった苦い思い出を思い出しました。
最近は大きな失敗はありませんが、小さな失敗や衝動買いはあるように思います。
「これはうまく乗せられているな。」
そんな心の違和感に敏感にありたいです。
【メールマガジンは2016年で終了。2017年から本ブログは不定期に】
業務全般の見直しの結果、
2017年からは本の紹介ブログは
不定期とさせていただくことにしました。
本の紹介以上に、現場を通じて学んだことなどを
ブログで更新していく方針にします。
もちろん読書はずっと続けていますし、
今後も「これは!」というものは紹介していきます。
同時にメールマガジンは2016年を持ちまして
終了させていただきます。
長い間の購読ありがとうございました。
【目指せ300冊レビュー!】
今回で210目です。
【最新の書籍紹介はこちらで掲載しています】
岩橋マネジメントサービスHP
【過去の書籍紹介はこちらのブログに書いていました】
中小企業経営に役立つビジネス書・自己啓発書レビュー
【おわりに】
最後までお読みくださりありがとうございました。
今後とも引き続き、よろしくお願いいたします。
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