グローバル経済に依存しない地域づくり『里山資本主義』
【今回のテーマ】
地域活性化
【今回の一冊】
◆タイトル:『里山資本主義』
◆著者:藻谷浩介 NHK広島取材班
◆出版社:角川oneテーマ21
◆ページ数:308ページ
◆2013.7.10
【こんな方にオススメ】(5段階)
● 地域活性化に取り組んでいる ☆☆☆☆☆
● 地域で循環する経済をつくりたい ☆☆☆☆
● グローバル経済の反対の考え方を学びたい ☆☆☆☆
【レビュー】
●中小建材メーカーが木質バイオマス発電所を持つ経済効果
岡山県真庭市の建築材メーカー銘建工業の代表取締役社長中島浩一郎さん。
建築材だけではジリ貧と考え、1997年末に木質バイオマス発電を完成。
1時間2000キロワット。一般家庭2000世帯分を発電。工場の電気のほぼ100%をバイオマス発電でまかなっている。
電力会社から一切電気を買わないことで1億円節約。
余った電力の売電による収入が5000万円。
合計年間1億5000万円のプラス。
毎年4万トンでる木くずを産業廃棄物として処理すると年間2億4000万円かかる。
合計年間4億円得している。
発電施設の建設費用は10億円。2.5年で元が取れる。
さらに使い切れない木くずをペレットとして専用ボイラーやストーブ用として販売。
コストは灯油とほぼ同じコストで同じ熱量を得られる。
真庭市内の一般家庭の暖房や農業用ハウスのボイラー燃料として急速な広がりを見せている。
真庭市はバイオマスタウン構想をかかげ、バイオマス利用を推進している。
現在、真庭市のエネルギー自給率11.6%(岡山県0.6%、全国4%)
・銘建工業株式会社
本書はお金が中心であり、金・効率・便利・楽をものさしとするマネー資本主義に対して、
金よりも大切なものがあるとし、いのち・いい人間関係・役立ち感をものさしとする里山資本主義を提唱しています。
里山資本主義とマネー資本主義の対比はこちらのサイトで見やすく表に整理されています。
社会福祉法人 優輝福祉会 「里山資本主義」実践レポート
冒頭でご紹介したのは木質バイオマスに着目した建材メーカーと所在する市の取り組みです。
この建材メーカーは従業員数263名(※HPより)ということで、中小企業の中でもかなり大きな会社です。
とはいえ、発電所を自前でつくり、産業廃棄物として処分していたコスト、電力会社に払っていた電力料を0にし、さらに売電で5000万円プラスにするという大胆な取り組みに驚きました。
日本の国土の3分の2は森林です。どうしても海外から購入するエネルギーが安くて仕方ないのかと思いがちですが、国産木材の可能性を大いに感じさせるお話でした。
地域で循環し、雇用も創出し、人と人との心のつながりを大切にする。
そんな本書のテーマ『里山資本主義』はとても心に響きました。
(1)里山のなんでもないと思っていた花でイベント大成功
広島県庄原市で里山暮らしを現代的にアレンジしている和田芳治さん。
都会の人向けにアピールできるイベント企画を検討していた。
毎年2月に町内のそこらじゅうに咲き、なんでもないと思っていたセツブンソウ。
それが、石灰質の石がごろごろした、夏涼しく早春に光があたる場所だけに咲く、日本でも非常に珍しい品種であることを人から教えられた。
そして節分草祭りを開催。直径わずか2センチの可憐な姿を見ようと、予想を上回る大勢の人が押し寄せ、以後、毎年恒例となった。
今では西日本一の自生地として有名にもなった。
この成功体験は、価値がないと思い込んでいたものが実は町作りの武器になる、東京にないものだからこそ、東京とは違う魅力を作っていけるのだと和田さんに悟らせた。
私も、就職して一度千葉在住・東京勤務になったからこそ、地元大阪島本町の良さを知ることができました。
今住んでいる亀岡市畑野町は人口が減少し、少子高齢化が進んでいるところですが、自然あふれる素晴らしい場所だと感じています。
ずっと同じ場所にいては感覚が麻痺してしまって、価値があることに気づかない場合があります。
地域の価値に気づくには、以下の2つの方法から価値を見直すことは大いに意義があるように思われます。
1.一度、地域から離れて暮らしてみる
2.よそ者の声に耳を傾ける
経営支援の場でも、話をじっくり伺うとその会社の魅力が理解でき、それを全面にPRすることで業績が改善することがよくあります。
見慣れた地域に少し視点を変えることで新しい価値が見えてきます。
(2)エネルギー自給率72%の人口4000人未満の町
オーストリアの人口4000に満たないギュッシング市。
20世紀を通じて極めて貧しく、西側諸国の中で最後尾を走っていた町。
今は、バイオマス発電が3基、30近いバイオマス関連施設があり、エネルギー自給率72%。
発電ででる排熱を暖房や給湯としてペレットボイラーのセントラルヒーティングで地域家庭や事業所に。
1990年、ギュッシング議会は全会一致でエネルギーを化石燃料から木材に置き換えていくことを決定。
単なるエネルギー問題ではなく、地域経済再生の切り札ととらえていた。
1992年最初の地区で木質バイオマスによる地域暖房を開始。
燃料となる木材も自分たちで放置していた森の木を切り出すことで調達。
木材の買取価格は地域暖房の利用料から支払われる。
エネルギーの利用料をエネルギーを利用する人たちで決める。
銀行返済終了後は利用料の値下げを決定。
すると、国際価格に左右されない安価で安定した熱・エネルギーを求めてヨーロッパ中から企業がやってきた。
13年間で50もの企業がやってきて、1100人の雇用を生み出した。これは人口の4分の1という数字。
これにより遠くに出稼ぎに行く人もぐっと減った。
・オーストリア・ギュッシング 人口4000人の寒村に起きた奇跡
この事例に感銘を受けました。
人口4000人に満たない町でできるのなら、畑野町でもできるのではないかと。
原油価格、為替レート、電力会社の値上げに左右されず、自分たちで価格を決められるエネルギー、とても魅力的です。
家の庭の剪定・草抜きだけでも処分に困り、有料ゴミ袋でもやすゴミとして処分するのももったいないなぁと思っていました。
バイオマスへの取り組みの結果として、企業が後からやってきた点がとても興味深いです。
最初から企業誘致ではなく、企業が自発的に来たくなる環境をつくるということですね。
下記のレポートによれば、EUとオーストリアの方針という大きな前提があるようですが、日本の里山でもこういうのが広がっていけばなと思いました。
・木質バイオマスで地方創生 オーストリア「ギュッシング・モデル」とは何か
(3)東京の電力会社から周防大島のジャム屋へ
京都出身の松嶋匡史さん。
2006年勤めていた電力会社を辞めてIターン、東京から周防大島でジャム屋を開業。
きっかけは新婚旅行で訪れたパリのジャム屋。
妻の父親の呼びかけから原料となる果樹がすぐ身近にある周防大島も悪くないと決定。
地域に利益が還元される形でモノづくりを考えた。
生産者と交流し、農家からジャム作りのヒントを直接仕入れた。
原料となる果物は高い価格で買い取ることを決定。
松嶋さんは味の均一性を求めない。
一瓶一瓶味や風味が違って当然という結論に達した。
徹底的に手作りにこだわる。地元の雇用にもつながる。
大手メーカーの大量生産品に比べると格段に高い。
しかし、少量多品種、画一化されていない個性豊かな味。
そして何より、周防大島という素晴らしい環境で、顔の見える人たちによって作られていることが飛ぶように売れ続ける秘密となっている。
周防大島では、20代~40代の若い力が次から次へと島の眠れる宝を掘り起こし、新たなビジネスに結びつけている。
本書で登場する耕作放棄地で牛を飼い、1つ1つ味の違う牛乳を提供している洲濱正明さんの事例でもあったのですが、
「1つ1つ味が違う。」という価値はとてもおもしろいなと思いました。
均一で大量生産と真逆の概念ですね。
まさに逆転の発想。
周防大島はまだ行ったことがないのですが、一度訪ねてみたいなと思いました。
また、松嶋さんはジャム作りは全くの未経験からのスタート。
きっかけはフランスの新婚旅行とのこと。
何がきっかけになるかわかりませんね。とてもおもしろいです。
やはり、面白そうと思ったことは色々試しにやってみることですね。
・シックス・プロデュース(自然放牧の牛乳づくり)
●作りすぎて捨てていた野菜を活用
広島県庄原市で社会福祉法人の理事長、熊原保さん。
デイサービスの利用者であるおばあさんとの会話。
「うちの菜園で作っている野菜は、とうてい食べきれない。いつも腐らせて、もったいないことをしているんです。」
作りすぎた野菜が捨てられていることは熊原さんも知っていたが、施設で使う野菜を市場以外から買うという発想はなかった。
固定概念に縛られていた。
「みなさんの作った野菜を施設の食材として使わせてもらえますか?」
このアンケートで100件ものお宅からぜひ提供させてほしいと返事が来た。
地域通貨をつくり、野菜をそれで買い取る仕組を構築。
社会福祉法人でレストランを経営し、その地域通貨を使えるように。
レストランの隣には保育所を併設。
お母さんがレストランスタッフで保育所に預けて働ける。
レストランは一人暮らしの方が楽しくランチ・おしゃべりができる場に。
希望すればお年寄りが保育園で子どもたちと遊べる。
田舎ならではの素敵な循環の仕組みです。
地元でこういうことができないかなとこれも思いました(笑)
本文中では具体的な人の事例が紹介されており、とても胸を打つお話でした。
事例中心で、1つ1つがドラマであり、とても楽しく読ませていただきました。
まだまだ新顔のよそ者ですが、地元でも面白いことをはじめたくなった1冊でした。
【目次】
はじめに-「里山資本主義」のススメ
第一章 世界経済の最先端、中国山地 -原価ゼロ円からの経済再生、地域復活
第二章 二一世紀先進国はオーストリア -ユーロ危機と無縁だった国の秘密
中間総括 「里山資本主義」の極意 -マネーに依存しないサブシステム
第三章 グローバル経済からの奴隷解放 -費用と人出をかけた田舎の商売の成功
第四章 ”無縁社会”の克服 -福祉先進国も学ぶ”過疎の町”の知恵
第五章 「マッチョな二0世紀」から「しなやかな二一世紀」へ -課題先進国を救う里山モデル
最終総括 「里山資本主義」で不安・不満・不信に訣別を -日本の本当の危機・少子化への対策
おわりに -里山資本主義の爽やかな風が吹き抜ける二〇六〇の日本
あとがき
【今回の一冊】
◆タイトル:『里山資本主義』
◆著者:藻谷浩介 NHK広島取材班
◆出版社:角川oneテーマ21
◆ページ数:308ページ
◆2013.7.10
【おすすめ度】(5段階)
●総合 ☆☆☆☆☆
●読みやすさ ☆☆☆☆
【関連書籍のレビュー】
【関連ブログ】
【関連サイト】
今回は本文中に紹介しました。
【編集後記】
藻谷浩介さん「お金に換算できない価値が眠るところ」 | あの人に聞く
里山資本主義に関連して放送されたNHKの番組が無料で閲覧できます。
これを見れば、本書の事例がほぼ網羅されています。
地域についてとても考えさせられる濃い本でした。
【目指せ300冊レビュー!】
今回で205目です。
【最新の書籍紹介はこちらで掲載しています】
【過去の書籍紹介はこちらのブログに書いていました】
【おわりに】
最後までお読みくださりありがとうございました。
今後とも引き続き、よろしくお願いいたします。
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