福井・富山に学ぶ地域活性化『福井モデル 未来は地方から始まる』
【今回のテーマ】
地域活性化
【今回の一冊】
◆タイトル:『福井モデル 未来は地方から始まる』
◆著者:藤吉 雅春
◆出版社:文藝春秋
◆ページ数:238ページ
◆2015.4.21
【こんな方にオススメ】(5段階)
●地域活性化に関わっている ☆☆☆☆☆
●まちづくりを学びたい ☆☆☆☆
【レビュー】
●北陸三県の地域力
地域経済が疲弊していると言われている中で、比較的元気なところ、うまくいっているところはないのかと常にアンテナを張っています。
地域活性化について新たな情報を仕入れ、関わっている町に少しでも活かせるものがあればという思いからです。
その中で目にとまったのが本書です。
・47都道府県幸福度ランキング2011年・・・1位・福井県、2位、富山県、3位・石川県by「幸福度指数研究会と法政大学大学院坂本光司教授」
・生活保護者の受給率の低さ・・・1位・富山県、2位・福井件、8位・石川県
・全国学力テストで福井県は1位か2位に定着
・福井大学の就職率が全国の国立大学でトップ。就職後の三年以内の離職率が7.1%(全国平均31%)
・福井県の人口十万人あたりの社長輩出率全国1位、高校生の就職内定率2位、共働き率1位、人口十万人あたり書店数1位
これまで富山、石川、福井の北陸三県について意識したことがなかったので、プロローグにあるこのような情報はとても新鮮でした。
本書を思い返して特に印象に残ったのはこの3点です。
・富山市森市長のコンパクトシティーと街づくりの取り組み
・鯖江市が世界三大メガネ産地となった経緯
・福井県の学校教育
このブログでは全容というよりも、面白いと思った具体策を取り上げてみたいと思います。
(1)『孫とお出かけ支援事業』by富山市
これを知って、もっと頭をやわらかくしないといけないなと感じました。
・市内にあるファミリーパーク(BBQもできる動物園)、博物館、科学館、民俗資料館、立山のアドベンチャー施設などの市の施設は祖父母と孫やひ孫が同伴すれば、入園料が全額無料となる一年間限定のサービス
・これは高齢者の外出を促進する政策
・外出する機会が増えれば健康寿命を延ばすことにつながり、将来の医療費を抑えることになる
・孫を連れて行ったら財布のヒモがパパやママよりも緩む
・おじいちゃんは帰りに孫を連れて寿司屋で食事くらいする
・高齢者の外出は地域経済に貢献する。健康にも世代間交流にもなる
・入場無料で一石三鳥を狙った政策
とてもうまい政策だと感じました。
施設の稼働率が上がる。入場料以外の消費は増える。ついでに飲食店等周囲でも消費につながる。
私も子どもができて、祖父母にとって孫がいかに愛おしいかがよくわかりました。
いろいろと奮発もしてくれるし、物も買ってもらえます。
『祖父母と孫』
この組み合わせをコンセプトにすれば、他の自治体でもいろいろと応用ができそうですね。
大事なのは目先の入場料に固執せず、全体を見る視点でしょうか。
富山市 孫とおでかけ支援事業
(2)『おでかけ定期券事業』by富山市
これも、『孫とお出かけ支援事業』と発想が似ています。
・65歳位上の高齢者は、路線バス、ライトレール、地電などの交通機関を利用する際、市内各地から中心市街地まで出かけたら、一回の交通費が百円になる。
・ゴールは中心市街地でないと、通常料金になってしまう。
・岐阜との県境など遠方から市街地への路線バスなら1160円から2600円かかるのが100円になる。
・中心地まで出かけたくなる仕組み
・「おでかけ定期」を利用した場合、調査によると、一人あたりの消費額が多い。その中身は飲食費。
・クルマ社会から公共交通にシフトさせると、食事の際にアルコールを飲むようになった。
・中心市街地の歩行者数が増えた。空き店舗数が減った。
・「おでかけ定期券」を利用した65歳以上の高齢者の平均歩数は1人あたり1309歩増えた。
・1歩追加して歩くことによる医療費削減効果は0.061円。1日1309歩だから1日あたり約80円の医療費削減。
定期券利用者は1日平均2591人だから1日全体で20万7280円、年間で7560万円の削減に。
この話はとても良くわかります。
私も車でないと町にいけない山奥に住んでいるので、100円で市街地に行ければいいなと思います。
私個人はお酒を飲まないのですが、地方都市の飲食店経営者に話を聞くと、
「警察の取り締まりが厳しくなったのもあり、公共交通機関が少なく、お客さんがお酒を飲まなくなった。」
と、客単価減少を嘆いておられることがよくあります。
また、心理的にも通常1,000円以上かかるものが100円で住むとなると財布の紐が緩みますね。
得した分、いつもは我慢していたものに使おうという気になることも想像できます。
医療費削減まで試算する点はすごいなと思いました。
これも、公共交通だけの採算にとらわれず、全体を見る視点がいかに大切かを示していると思います。
富山市おでかけ定期券事業
(3)経済成長を栽培するエコノミック・ガーデニング
地域活性化といえば、すぐに思い浮かびがちなのが企業誘致であり、衰退する町は企業の流出を嘆くのがよくあるお話です。
しかし、エコノミック・ガーデニングとはその真逆の発想です。
・コロラド州にある人口4万人の都市・リトルトンが15年間で1企業も誘致せずに税収3倍、雇用2倍まで成長した成功モデル。
・企業誘致は「エコノミック・ハンティング」。この発想はやめる
・地元の成長しそうな中小企業をみんなでガーデニングのように育成する
・行政側がどの産業を成長させるかターゲットを絞るのではなく、伸びそうな企業をターゲットにする
・自治体、大学、NPO、シンクタンク、金融機関で協力体制を構築
・具体的支援は情報提供による営業支援、販路拡大のためのコネクションづくり、経営者セミナーの開催、市場調査、行政による営業や経営のアドバイス、企業活動がしやすいようなインフラ整備、バリアフリーなど住みやすい町づくり
・よそ者に寛大で多様性がある町づくりが必要
・行政が「注目企業」とラベリングすることがお墨付きとなり、中小企業が成長し、雇用と税収が大きく伸びた
・地元の巨大企業も「メンター役」で参加させることで、地元の中小企業を育成する役割を担うことで、大企業側も社会的信頼度が高まりウィンウィンになる
・エコノミック・ガーデニングは日本でも見られる地域協業による内発的発展を自治体が制度化したもの
おおさか北部で新規事業へのチャレンジを支援する仕事をさせていただいていますが、どれだけ不況と言われていても、元気な企業は必ず存在します。
そして、それは地域で業種が決まっているわけではなく、十人十色です。
本書にある、地域で業種を定めるのではなく、伸びそうな企業をターゲットにするという発想はとても理にかなっていると感じます。
大企業もうまくメリットを伝えて育成に関与させている点も賢いですね。
人口4万人でも税収3倍、雇用2倍は可能という話は大変興味深いです。
このような事例があれば、人口の少なさは言い訳にできないですね。
また、おおさか地域創造ファンド、ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金といった公的な補助事業に事業計画が採択されることや、経営革新計画、京都府知恵の経営実践モデル企業等に承認され、府知事の表彰状をいただくことはお墨付き効果があります。
特に業界として信頼できない業者が多いと思われている業界ほど、この信用のお墨付きの効果は抜群です。また、メディア等が取材する上でも安心につながります。自治体の支援も受けやすくなります。
●「思考のプロセスを可視化」する授業 by 福井県
知識を講義形式で詰め込んでも、社会ではそれに役に立たなくなりつつある中で、どのような教育が望ましいのか、福井県はその課題に既に取り組んでいるようです。
・知識伝達型の授業では、社会に出て、考えられない人になっている・中学1年生の社会科の例
・「EUの統合」についてグループで討論する
・「EUはなぜ統合する必要があるのか?」と問うと、「通貨の統一」といった答えが教科書には書いてある。これが知識伝達型の授業
・さらに教師がこう聞き返す「通貨を統一することって、いいことなの?」
・生徒たちは話し合い、A2サイズのホワイトボードに書き込む
・教師がiPadで考えたことを撮影して記録して残していく。これであとで振り返ることができる
・グループごとに発表すると、教師が「本当?」と問う
・生徒たちは立証するために、資料集などを使って調べる
・結論を見出し、EUの統合が何を意味しているかを自分たちの言葉でレポートする
・これが「子どもが主体となった授業」である
福井県の学校に通いたかったなと思いました。
現在は他の地域でもこのような授業になっているのでしょうか。
経営支援のセミナーや研修でも、知識伝達型のものは効果が疑問に感じることがよくあります。
私が依頼を受ける場合でも、なるべく一方的に話すだけのものにはしないように提案します。
個人でまず考え、グループで意見交換をすることで理解が深まり、また何よりも楽しいです。
セミナー後のアンケートでもグループワークがあった方が満足度が高いことが多いです。
親として子どもを教育する上でも、この福井県の教育は参考にしなければと感じました。
最終章で、『すべての答えは学校の授業にあった』とありますが、やはり教育はとても重要ですね。
国家でも、自治体でも、企業でも人財の教育が発展の根幹にあると思います。
内村鑑三著『代表的日本人』にこうあります。
東洋の思想家たちは、富は常に徳の結果であり、両者は木と実の関係と同じであるとみます。
木に肥料をほどこすならば、労せずして確実に結果は実ります。
「民を愛する」ならば、富は当然もたらされるでしょう。
「ゆえに賢者は木を考えて実をえる。小人は実を考えて実をえない。」
”木に肥料をほどこす”ことは教育や環境の整備を意味することと思います。
変えることは難しいですが、試すことは簡単です。
まずは手の届く範囲から教育というテーマも考えていきたいと思います。
【目次】
プロローグ 二十年前のベストシティはその後どうなったか?
第一章「過去」未来は過去の中にある
第二章「現在」世界を唸らせた富山市の挑戦
第三章「未来」新しい仕事を創り続ける福井モデル
最終章 すべての答えは、学校の授業にあった!
まとめ
エピローグ
参考文献
図版一覧
【今回の一冊】
◆タイトル:『福井モデル 未来は地方から始まる』
◆著者:藤吉 雅春
◆出版社:文藝春秋
◆ページ数:238ページ
◆2015.4.21
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【おすすめ度】(5段階)
●総合 ☆☆☆☆
●読みやすさ ☆☆☆☆
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【編集後記】
中小企業診断士として仕事をするということは、企業の支援に加えて、地域の活性化というテーマも避けて通れないように感じます。
上にもご紹介した書籍を執筆されている方ほど目覚ましい成果を正直上げられているわけではありませんが、リーダーの方と一緒にできることから形にしていっています。
大変微力ではありますが、私自身も進化し続けることが地域への貢献にもつながると思っております。
【目指せ300冊レビュー!】
今回で201冊目です。
【最新の書籍紹介はこちらで掲載しています】
岩橋マネジメントサービスHP
【過去の書籍紹介はこちらのブログに書いていました】
【おわりに】
最後までお読みくださりありがとうございました。
今後とも引き続き、当ブログをよろしくお願いいたします。
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