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【書籍紹介】社員を大切にする経営

鈴木正三・石田梅岩・上杉鷹山『日本資本主義の精神』

【感謝】
読者のみなさまへ
いつもありがとうございます。
大阪もずいぶんとあたたかくなってきました。
先日は枚方の農園に梅を見に行ってきました。
梅園の香りに心が癒されました。
花は季節を感じさせてくれますね。

【今回のテーマ】
日本論

【今回の一冊】
◆タイトル:日本資本主義の精神
◆著者:山本七平
◆出版社:ビジネス社

【こんな方にオススメ】(5段階)
●日本人の基本的な考え方のルーツを知りたい ☆☆☆☆☆
●日本的経営、日本的資本主義を見つめ直したい ☆☆☆☆

 

初稿:2010.2.26

更新:2019.12.19

 

【レビュー】

●江戸時代を知ることが、現代を知ることになる

江戸時代は、日本の歴史の中で、最も興味深い時代である。

「日本人の自前の秩序」を確立した時代であり、それが三百年近く継続した時代であるからである。

明治のように西欧を模倣し、戦後のようにアメリカを模倣した「マネ時代」でもなければ、古代の日本のように、中国がお手本であった時代でもなかった。

「マネ時代」ではないという意味では、最も独創的な時代であった。

当時の思想家は本当に考えねばならなかった。

また政治家は、模索をしつつ、新しい秩序を確立しなければならなかった。

日本人は明治における発展であれ、戦後の経済的成長であれ、「なぜそうなったのか」を把握しておらず、外部に説明できない状態である。

「なんだかわからないが、こうなってしまった」

のである。

これが発展につながっている時は良いが、同時に破滅をもたらす場合もある。

太平洋戦争はまさにそれであり、同じ失敗は許されない。

本書は日本人一人一人が明確に自己、日本人の本質を把握して、自らをコントロールするための一提案であり、視点の提供である。

日本的経営のルーツを求めて見つけたのがこの本です。

日本人が真面目で勤勉な理由の背景には本書で述べられていることがあるように感じます。

本書の中で印象的だった3人の人物についてご紹介します。

 

(1)鈴木正三

彼は戦国末期から四代将軍家綱までの混乱の時代から秩序確立の時代までの過渡期に武士、出家して禅宗の僧侶として生きた。

正三の時代は武士の成長期から停滞期への転換期であった。

太平の世は「戦国武士」の存在理由を否定し、「足軽から太閤へ」の夢もなくなった時代であった。

そんな中で正三は人々がいかに生きるべきかの具体的指針を打ち立てた。

正三は生活の業を立派な行為と考え、心がけ次第で労働をそのまま仏行となし得る「諸行即仏行なり」と考えた。

その考えが『四民日用』である。

(農民)
農作物を作り、自分の食べる以上に世に返すことは万民の命を助けることだ。

他念なく農業をすれば田畑は清浄の地となり、五穀も清浄の食となり、食べる人の煩悩を消滅させる薬となる。

(職人)※工
鍛冶職人や、諸々の職人がいなければ人々が必要とするものが揃わない。

(商人)
売買の作業は国中の「不自由でない状態」を流通によって支えている。

一切の流通が止まれば、人はあらゆる面で拘束をうける。一筋に正直の道を学ぶべし。

現在なら、石油の流通がとまり、食糧の流通がとまったら、日本人の全員が動くに動けない状態となり、「自由」を論ずる自由さえ失ってしまうであろう。

以上のように、「世俗の業務は、宗教的修行であり、それを一心不乱に行えば成仏できる」と正三は説いた。

日本人は仕事を”経済的行為”ではなく、一切を”禅的な修行”でやっている。

「世のため人のため」と、こうした考え方を末端にまで浸透させたら、その企業が世界一の優良企業になっても、不思議ではない。

この発想は、16世紀から現代まで続く、日本人の基本的な発想だからである。

諸行即仏行なり、とてもいい言葉だと感じました。

また、『四民日用』は仕事の本質を考えさせられます。

鉄・石油の輸入がとまったことが、太平洋戦争の引き金につながりました。

日本人の基本的な発想、大事にしたいです。

(2)石田梅岩

梅岩の時代、享保時代は戦国時代後の復興景気が終わり、全員の年功序列的昇進と、定年後の子会社行きにも似たのれん分けを保証するだけの経済成長は、もはや望めない時代であった。

彼は、武士が主君に忠ではなく、禄をもらっていれば、それは武士とはいえないように、商人も「売り先」への誠実がなければ商人とはいえない、という。

いわば「消費者への誠実」が第一であり、経費を三割節約して、利益を一割減にするという方法をとれと言っている。

結果としての利益は良いが、倹約に努めること、どん欲になると、道を外れ、必ず倒産するとした。

「売り先」への誠実、とても大切です。

私がこれからもお付き合いしたいと思う会社の共通点は誠実経営にあります。

利益はあくまで結果であとから付いてくるものですね。

(3)上杉鷹山

上杉謙信のときは三百万石と佐渡の金山を持つ最高、最大の大名だったが、景勝の時に会津百二十万石となり、関ヶ原で石田方についたために米沢三十万石となり、さらに跡取りがいなくなる危機の中で十五万石に削られた。

石高が20分の1になったにも関わらず、武士団は現在の従業員と同じように規模の縮小に応じて解雇するわけにはいかない。

となれば、藩の経営自体が成り立たなくて当然である。藩政が破滅の危機の時に大名になったのが上杉鷹山である。

1.倹約という支出の大削減
2.自己を含めた減俸と余剰人員の整理
3.追加税の徴収
4.武士の生産的労働力への転化

あたり前のことを実行にうつしたことで藩政の再建をなし遂げた。

これだけのことができれば、破産国家でも破産企業でも立ち直って当然であろう。

世の中でもっともむずかしいのは、実体を正しく見て、それに対応するあたりまえのことを実行に移すことなのである。

ここで挙げられている4点は会社の再生にもそのまま応用できる考え方です。

この藩再建の話は『代表的日本人』の上杉鷹山でも紹介されており、私が大好きなお話です。

中小企業の社長も、自社が窮地の時は、持ち直すまで最大限役員報酬を削減されています。

上杉鷹山は心から尊敬する日本人です。

●「あたりまえ」の実行を阻害する

「民主主義」という権威、鷹山が実行したことは、「あたりまえ」のことである。

だが、この「あたりまえ」のことを実行するには、「明君」が必要であった。

梅岩が言ったことも「あたりまえ」であろう。

しかし、倹約を実行に移させれば、多くの抵抗があり、その抵抗は、常にその時代の「権威」とされる言葉によって行われた。

いわば「聖人の教え」であり「武士の道」であり、戦後ならば「民主主義」であろう。

そして、それを克服しえた人は、常に、日本の伝統、すなわち、その社会構造とそれに対応している各人の精神構造を正確に把握して、それに即して実施していくという方法論を身につけていた。

すなわち、それが日本資本主義の倫理である。

レビューでは十分にこの”日本資本主義の倫理”は伝えきれませんが、本書は日本の社会構造と日本人の精神構造を正確に把握する上での大きなヒントが得られる本です。

この把握に基づく自己管理、経営管理ができれば混沌の時代を生き抜く大きな柱となると思います。

※本書は文語の引用が多く使われており、また完全に現代語で意味を解説されていないため、難解な部分があります。

【目次と注目ポイント】

第一章 日本の伝統と日本の資本主義

1 日本のこれまでを支えたものは何だったのか
●日本では経済学、経営学は役に立たない
●終身雇用契約のない終身雇用
●徳川時代の年功序列制
●仕事は経済的行為ではなく精神的行為

2 血縁社会と地縁社会
●日本の社会には、なぜ「希望退職」しかないのか
●東京が世界で一番安全な大都市である理由

3 「契約」の社会と、「話し合い」の社会
●イスラム圏では、無神論者は、契約する資格がない
●「神に誓って神を信じない」ことが可能な日本人
●どう契約しようと、「一方的」なことは
許されない日本社会

第二章 昭和享保と江戸享保

1 日本をつくった二人の思想家
●「昭和享保」も「江戸享保」も、会社のために働いても見返りはない
●両時代に現れた「商社性悪論」と「町人無用論」
●ソビエトになくて、日本にあった、近代化の条件

2 禅とエコノミック・アニマル
●自分で自分を表現できない日本文化を表現した正三
●農民は、社会の寄生虫である僧侶より、立派である
●「自分が信じられない」「本心では」は宗教的表現
●商人は、国中の「自由」をまもる大切な職業だ
●日本を変えた、結果としての利潤は善である、という思想
●世のため、人のため、という発言は、偽善ではない
●日本人だけが、なぜ、停年を悲しむのか

3 神学と心学
●「結果としての利潤」がなぜ日本にあふれたのか
●内部告発が「大悪」とされる理由
●現代日本の体質は、梅岩の思想の国際版

第三章 現代企業のなかの「藩」

1「資本の論理」と「武士の論理」
●企業内失業者を、優秀な労働力に変える
●藩株式会社が残した大いなる遺産

2 日本資本主義の美点と欠点
●事実を事実のまま見ることができれば、問題は解決する
●倒産は経営者の責任というのは健全な発想
●経済合理性のあまりに早い追求が裏目に出る

3 日本資本主義の伝統を失わないために
●省資源時代のエースも、また日本である
●日本は、常に、倒産が必要な社会である
●「忙しく振る舞う余剰人間」をどうするか
●「ひたすらやった」こと自体と成果をどう評価するか

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【今回の一冊】
◆タイトル:日本資本主義の精神
◆著者:山本七平
◆出版社:ビジネス社

【おすすめ度】(5段階)
●総合 ☆☆☆☆
●読みやすさ ☆
●ボリューム 普通

【編集後記】
最後までお付き合いいただきありがとうございました。

「敵を知り己を知れば百戦危うからず」

日本の経営はどうあるべきかを突き詰めていくと、歴史を学ばねばという発想になりました。

国によって歴史も文化も国民性も異なります。

一言で”資本主義”と言っても、実際の中身はやはり国によって違うものです。

本書を読んで知ったことは、成長経済が成熟経済に転換したのは何も現在が初めてではないということで、過去の歴史でもあったことだということです。

そして、そのような時代の中で人々がどのように生きていくべきかという思想を考えて実践してきたということです。

日本資本主義とは?日本資本主義の倫理とは?

混沌とした時代だけに歴史から教訓を学ぶことも大切だと考えるこの頃です。

【目指せ100冊レビュー!】
今回で49冊目です。

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