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【今回のテーマ】

新商品・製品の起ち上げ

 

【今回の一冊】

◆タイトル:『キャズム2』

◆著者:ジェフリー・ムーア 川又政治訳

◆出版社:翔泳社

◆ページ数:360ページ

◆2014.10.4

 

【こんな方にオススメ】(5段階)

●今までにない新製品の開発・販路開拓を行っている  ☆☆☆☆☆

●業務用のIT製品の新製品開発・販路開拓を行っている  ☆☆☆☆☆

●中小企業の新事業起ち上げを支援している ☆☆☆☆

 

【レビュー】

●キャズムとは?

ハイテク製品を市場に浸透させていくときの最大の落とし穴は、少数のビジョナリー(進歩派)で構成される初期市場から、多数の実利主義者で構成されるメインストリーム市場へと移り変わるところにパックリと口を開けて待ち受けている。

この二つの市場のあいだに横たわる溝を「キャズム(深い溝)」と呼んでおり、ハイテク製品のマーケティングを長期的な視野で捉える際には、キャズムを越えることが最重要課題となる。

キャズムを越えた者がハイテク分野で財をなし、失敗すればすべてが水泡に帰すのだ。

福岡の明太子の生みの親「ふくや」は、苦労して得た明太子の製法について、特許を取らず、作り方を他者に教えました。

その結果、博多名物明太子が広く認知され、その中で今も「ふくや」はNo.1の位置におられます。

もし、「ふくや」が特許を取り、作り方を誰にも教えなければ、知る人ぞ知る逸品で今のように明太子が全国で普通に売られている状況にはならなかったのではないでしょうか。

意図してかどうかはわかりませんが、あとでご紹介する競争相手をつくったことで市場が大きく広がりました。

ハイテク市場ではないですが、これも「キャズム」を越えた事例ではないかと感じました。

中小企業の場合、一部のマニアや先進的な顧客だけに受け入れられるだけで十分な売上をあげるケースも多いですが、

そこからメインストリーム市場へ打ってでることは並大抵のことではありません。

経営戦略・経営計画を考える時に、顧客の市場やニーズはよく考えますが、本書のように顧客をイノベーター、ビジョナリー、アーリーマジョリティー、レイトマジョリティー、ラガードと分けることを意識して書くことはあまりないように思いました。

新製品の売り込みを行う時に、相手がどの顧客なのかを意識すると、成約率も変わってくるのではないでしょうか。

 

(1)顧客を4つに分ける

Q:「いつ、電気自動車を買いますか?」

A:「近所でまだ誰も電気自動車を持っていないときに買おうとする人」→イノベーター・ビジョナリー

A:「電気自動車の効用が証明されて、電気自動車向けのサービスステーションが街中で見られるようになったら買う。」→アーリー・マジョリティー

A:「ほとんどの人が電気自動車に乗り換えて、ガソリン自動車を運転することが不便になってきたら買う。」→レイト・マジョリティー

A:「永久に買わない。」→ラガード

顧客を上記に分類し、新たな製品が市場でどのように受け入れられていくかを理解するためのモデルをテクノロジー・ライフサイクルという。

テクノロジー・ライフサイクル

●イノベーター(革新者※テクノロジー・マニア)・ビジョナリー(アーリーアドプター※先駆者)

イノベーター(革新者※テクノロジー・マニア)>

・新しいテクノロジーに基づいた製品を追い求める人たち。技術指向。

・テクノロジーを進化させるために不具合も受け入れる。批評家としての役割も果たす。

・新しいテクノロジーを普及させるための橋頭堡となる。

・新製品を真っ先に手に入れたがる。一方、できるだけ安く買おうとする。

 

ビジョナリー(アーリーアドプター※先駆者)>

・変革のための手段を購入する。技術指向ではない。

・まったく新たなテクノロジーが自社の企業戦略に合うものかどうかを洞察する能力を有し、その洞察を自らリスクを背負って現実のプロジェクトへと移し、さらに、会社全体がそのプロジェクトを支援するようにもっていくカリスマ性を備えている人物。

・ハイテクベンダーを支える影のベンチャーキャピタル。

・ビジョナリーがー求めているのは単なる改善ではなく、ブレークスルー

・新しいテクノロジーへの先行投資が、これまでとは「ケタ違い」のアウトプットをもたらしてくれるとビジョナリーが判断すれば、彼らはその夢を実現するために大きなリスクをも辞さない。

・ハイテク以外の業界に対してテクノロジーの進歩を知らしめる

・自分たちの業界よりもテクノロジーに深い関心を抱き、既存の製品インフラに頓着しない。周りを混乱させても気にしない。

 

アーリー・マジョリティー(実利主義者)

・実用性を重んずる。オペレーションの生産性を改善する手段を購入する。

・圧倒的多数を占める顧客グループ。

・着実で、成果を測定できる進歩。

先行事例相互の信頼関係が特に大切な要素。

ベンダーを競争させたがる。

・価格に関して、そこそこうるさく、忍耐力が問われる。

 

レイト・マジョリティー

・製品の使用が決まった後でも、自分で使う時に多少の抵抗を感じる。

・進歩よりもこれまで守ってきた慣習が拠り所。

・世の中に取り残されないように移行する。

・パフォーマンスより利便性。機能の豊富さより使いやすさ

 

●ラガード(懐疑派)

・新しいハイテク製品には見向きもしない。

・間違ったことをしたときにそれを教えてくれる存在でもある。

 

新製品が出た、新しい店ができた、そんな時にあなたはどう行動しますか?

そこから上記分類のどれに自分が近いのかが見えてくると思います。

私の場合、IT機器に関しては、イノベーター・ビジョナリーに近いかもしれません。

また、IT企業に就職活動をしていたときは、ITで劇的に企業を変えたいと思っていました。ということは、理想の顧客はビジョナリーといったところですね。

革新的な提案をして話が噛み合わないときは、相手が実利主義者・レイト・マジョリティー・ラガードであったと考えると納得できます。

よく、ホームページで事例を紹介しましょうと提案するのは、実利主義者に効果的ということですね。

 

(2)キャズムを越える基本戦略

小さな池で大きな魚になる

・キャズムを越えようとするときには、顧客の数でターゲット・マーケットを決めるのではなく、顧客が感じている痛みの大きさで決める。

・特定のニッチ市場を攻略地点として設定し、持てる勢力を総動員してそのニッチ市場をできるかぎり早く支配すること。

口コミ効果がないと、製品を売り込むのに苦労することになり、その結果、販売コストが上がり、売上が不安定なる。

 

中小企業の戦略としても、この「小さな池で大きな魚になる」という言葉はとてもしっくりきました。

また、「顧客が感じている痛みの大きさ」もなるほどなと唸りました。

基本的に大手が参入する旨味がないような市場を占拠するのは中小企業の鉄則です。

顧客の痛みが大きいとは、その問題が解决できるなら予算を用意してもいいということです。

新製品の場合、ここは仮設と検証の繰り返しですが、頭で考えすぎずに実際に顧客のところに行き、提案することが大切です。

 

(3)メインストリーム市場に乗り込むのに必須のホールプロダクト

・賢明なベンダーは、市場を支配するためにはホールプロダクトが重要であると認識したうえでマーケティング戦略を立てる。

・ホールプロダクトとは、顧客の目的を達成するために必要とされる一連の製品やサービスのこと。

・オラクルが市場のスタンダードとなったのは、競合他社より製品が優れたいたというよりも、むしろ顧客にとってベストのホールプロダクトを提供したからだ。
 具体的には、IBM標準であったクエリー言語SQLを装備したことと、種々のハードウエアへの移植性であった。
 IT部門の実利主義者が支持したのは、オラクルのホールプロダクトだった。

・ホールプロダクトを作るには、ターゲットカスタマーのユースケースから遡るのが良い。

 

ホールプロダクトは顧客の問題を解决するパッケージといったところです。

初期市場で作る製品がコアプロダクトであり、それにターゲット顧客・業界向けに足りない部分を加えます。

本書では、ホールプロダクトを作らずに営業・販売促進に注力するとメインストリーム市場で失敗するといっています。

特徴ある製品をさらに絞り込んだ顧客の問題を解決するパッケージとする。

この発想はとても応用が効きそうな考え方です。

 

(4)競争がないところには市場もない

・テクノロジー・ライフサイクルの進展に伴って、競争の持つ意味合いが大きく変わってくる。

・テクノロジー・ライフサイクルの進展があまりにも速すぎるため、ときに競争相手が存在しないという時期すら発生する。

・ただ残念なことに、競争がないところには市場もない。

・そのため、キャズムを越えようとしているときには、何としても競争を作り出さなければならないのだ。

・初期市場におけるベンダーの競争相手はライバル会社ではなく、顧客企業の中に存在している。

・メインストリーム市場にはビジョナリーがいない。実利主義者にとっての「競争」とは、一つの製品カテゴリーの中で複数の製品とベンダーを比較検討することである。

・この比較プロセスは実利主義者にとって欠かせない。評価項目ごとに採点したり重み付けしたりして作成された比較マトリックスがその正当性の裏付けとなる。

・しかし、競争を捏造してはならない。

・競争相手には代替手段と、対抗製品がある。この2つの競争が見いだせないとき、キャズムを越えるにはまだ早すぎることを意味している。

・代替手段では、現行ベンダーが提供している解決策の不備を突いて、この予算の獲得を目指す。

・対抗製品には相手のテクノロジーを認めながらターゲット・セグメントに的を絞って差別化を図る。

 

ビジネスプランが評価されるとき、他者に模倣されたらどうするのか?大手が参入したらどうするのか?といった点がいつも議論になります。

しかし、本書では競争がないところには市場もないと言い切っています。

この視点を知り、とても反省しました。

中小企業の場合、そもそも、競争が生まれるはるか手前の時点の新商品・サービスが多いのではないかと。

ある中小音響メーカーの社長は、新製品について、「大手が参入してくれたので、一気に市場で認知度が広まり、当社の製品の売上も伸びた。」

と言われていました。

キャズムを越えるにはまず市場自体が創造されないといけないんですね。

その上で他者との差別化を明らかにし、実利主義者を説得すると。

 

●ポジショニング

・ポジショニングの究極の目的は、ターゲットカスタマーの頭の中に、「この状況ではこの製品を購入するのがベスト」という観念を植え付け、それが未来永劫消えないようにすることである。

・ポジショニングを考えるときに多くの人が犯す過ちがある。それは、製品を売りやすくするにはどうすればよいかという考え方だ。
 しかし正しくは、製品を買いやすくするにはどうすればよいかを考えるべきなのだ。

・製品を買いやすくすることは、顧客が求めているものを理解することにつながる。そして、買いやすくなれば、それだけ顧客が製品を購入する可能性が高まる。つまり、売りやすくすることにつながる。

誰のために、何のために、この2つがビジョナリーが商品を買いやすくするための、不可欠のポジショニング要素である。

競争と差別化、この2つは実利主義者が商品を買いやすくするための不可欠のポジショニング要素である。

財務状況と将来性、この2つは保守派が商品を買いやすくするための不可欠のポジショニング要素である。

・ポジションニングステートメントの雛形

 これは、「 1 」で問題を抱えている「 2 」向けの、「 3 」の製品であり、「 4 」することができる。そして、「 5 」とは違って、この製品には、「 6 」が備わっている。

 1=現在、市場に流通している「代替手段」 2=橋頭堡となるターゲット・カスタマー 3=この製品のカテゴリー
 4=この製品が解决できること 5=「対抗製品」 6=ホールプロダクトの主だった機能

 SAP HANAの例:これは、「顧客にリピートしてもらえないこと」で問題を抱えている「オンライン小売業者」向けの、「オンライン・トランザクション処理のためのデータベース」であり、「トランザクションをリアルタイムで分析し、顧客に最適の商品をオファーする」ことができる。そして、「オラクルのデータベース」とは違って、「トランザクション処理と分析の環境を分離することなく、双方を同時に処理する機能」が備わっている。

 

製品を売りやすくるのではなく、買いやすくする。これもとても良い勉強になりました。

製品を売りやすくするのは売り手目線であり、買いやすくするのは顧客目線ですね。

また、ポジショニング要素は顧客の分類によって異なる点も興味深いです。

ポジショニングステートメントも秀逸です。

新製品をこの1~6で説明できると、とてもわかりやすく相手に伝えることが可能ですね。

よくできたビジネスプランはこのように少ない言葉でシンプルにまとめられるものです。

本書はハイテク市場を舞台にしていますが、新製品・サービスを世に出すことを目指すあらゆる企業の参考になる内容でした。

 

【目次】

はじめに

序章 マーク・ザッカーバーグが億万長者になれるなら

第1章 ハイテク・マーケティング--錯覚

第2章 ハイテク・マーケティング--悟り

第3章 Dデー

第4章 攻略地点の決定

第5章 舞台の集結

第6章 戦線の見極め

第7章 作戦の実行

終章 キャズムを越えて

補足1 ハイテク市場の発達段階

補足2 デジタル市場のフォー・ギアズ・モデル

訳者あとがき

 

【今回の一冊】

◆タイトル:『キャズム2』

◆著者:ジェフリー・ムーア 川又政治訳

◆出版社:翔泳社

◆ページ数:360ページ

◆2014.10.4

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【おすすめ度】(5段階) 

●総合 ☆☆☆☆☆

●読みやすさ ☆☆☆

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【編集後記】

キャズムを乗り越えるための作戦を本書ではノルマンディー上陸作戦を例にして説明されています。

メインストリーム市場に橋頭堡を築き、そこから突破していく。

大変ボリュームがある本ですが、とても勉強になりました。

 

【メールマガジンは2016年で終了。2017年から本ブログは不定期に】

業務全般の見直しの結果、

2017年からは本の紹介ブログは

不定期とさせていただくことにしました。

本の紹介以上に、現場を通じて学んだことなどを

ブログで更新していく方針にします。

もちろん読書はずっと続けていますし、

今後も「これは!」というものは紹介していきます。

同時にメールマガジンは2016年を持ちまして

終了させていただきます。

長い間の購読ありがとうございました。

 

【目指せ300冊レビュー!】

今回で209目です。

 

【最新の書籍紹介はこちらで掲載しています】

岩橋マネジメントサービスHP

 

【過去の書籍紹介はこちらのブログに書いていました】

中小企業経営に役立つビジネス書・自己啓発書レビュー

 

【おわりに】

最後までお読みくださりありがとうございました。
今後とも引き続き、よろしくお願いいたします。   

丹波経営研究会